ARMプロセッサとは、イギリスの Arm 社の設計(アーキテクチャ)を元にしたCPUです。
元は家電用でしたが、現在は大型コンピューターから小型機器まで、あらゆるものに使用されており、iPhone などに使われている Apple 社のCPUもそのひとつです。

クアルコム(Qualcomm)が開発した Snapdragon(スナップドラゴン)もそのARMプロセッサのひとつで、主に Android スマホに使われていましたが、2024年に登場した Snapdragon X シリーズはそれをパソコン用にして、AI専用機能(NPU)も搭載したものです。

Qualcomm Snapdragon X Elite

このため Snapdragon X を使っているパソコンは、使用後は完全に電源を切るのではなく、スマホのようにスリープにするのを基本としています。
これはモダンスタンバイとも呼ばれており、フタを閉じるだけで自動的にスリープし、顔認証と併用すればフタを開けるだけで素早い復帰が可能です。

また、スリープ中もネットワーク接続が維持され、メールやSNS(X や LINE など)を常時受信できます。
Snapdragon はスリープ中のネットワーク維持を低電力で行える設計となっていて、最新の無線通信である Wi-Fi 7 にも対応しています。

Snapdragon の開発元であるクアルコム社は元々モバイル通信技術の会社なので、その強みが活かされている形です。

ARMプロセッサは家電用だったため省電力性能に優れており、長時間のバッテリー駆動が可能なのも長所です。

ARM版Windows モダンスタンバイ設定

スマホのCPUがベースなので、スマホの使い勝手をPCにも適用しようとしている

Snapdragon X Elite 温度アピール

低発熱で省電力がARMの最大の特徴
だから軽量ノートPCに特に有用

しかし、ARMプロセッサは Intel 社や AMD 社のCPUとは違い、ARM版Windows を使わなければなりません。
そして ARM版Windows は、対応しているソフトウェアが少ないという欠点があります。

具体的には、以下のような問題があります。

  • 64bitアプリが動作しない
    古いソフト(32bitアプリ)は動きますが、新しいソフト(64bitアプリ)はARMに対応していないと動きません
    そして多くのソフトは、それが32bitなのか64bitなのか、判別が難しいです。
  • DirectX12に対応していない
    Windowsのグラフィック機能 DirectX の最新版に対応していません。
    よって多くの新作ゲームや、一部の3Dモデリングソフトが動作しません。
  • OpenGL 3.3 以上は非対応
    DirectX がダメでも、OpenGL という汎用グラフィック機能に対応していれば動きます。
    しかしこちらも最新の OpenGL はダメで、動かない CAD(設計ソフト)も多いです。

つまり、普段使っているソフトが動かなかったり、正常でなかったりするので、その点の不自由さがあります。

ARM版Windows の起動エラー
※こうしたエラーメッセージを頻繁に見ることになるかも……

ただ、Windows を作っているマイクロソフト社が、2024年6月に制定した次世代 AI PC の規格「Copilot+ PC」のスタートを Snapdragon X、すなわちARMプロセッサ搭載機にしたため、ARM版Windows の改良に意欲的になっています。

Adobe などのソフトウェアメーカーもARM対応を推進しており、Snapdragon 搭載機も各社から発売され、普及が進んでいます。

この状況なら、ARM版Windows を取り巻く環境は急速に改善されるかもしれません。

また、次の Windows は Copilot+ PC に認定されるクラスの AI 性能が必要になると述べられているので、Copilot+ PC を買えば、長く使えることが保証されます。
逆に Copilot+ PC に満たないAI性能のパソコンは(現在の発表に沿えば)次以降の Windows は対象外になります。
(具体的には、NPUというCPU内のAI専用機能の性能が 40TOPS 以上必要です)

動かないソフトが多いと言っても、マイクソフトの Office(ワードやエクセル)、Adobe 社の Photoshop や Lightroom、Acrobat はARM版が存在するため、普通に使うことができます。
よって、これらを使った事務や画像加工などで困ることは、ほぼありません。

Adobe 社は(2024年8月現在)、作画ソフトの Illustrator、動画編集ソフト Premiere Pro、出版用ソフト InDesign のARM版の開発も進めています。

ただ、ARM版Windows は、当面は動かないソフトが多いことは承知しておきましょう。

なお、Snapdragon X Elite は、Apple のMシリーズをライバルとしています。
Apple のパソコンも、市販のソフトやゲームはほとんど動きませんが、ARMプロセッサらしい使い勝手の良さがあります。

Snapdragon には Apple ほどのブランドイメージはありませんが、一応 Windows なので、Apple のものより使えるソフトは多いです。
現時点の ARM版Windows 機は、Apple(Mac)と普通の Windows 機の中間的なパソコンと考えても良いでしょう。


※このページは ASUS の Snapdragon X Elite 搭載機 Vivobook S 15 S5507QA のレビュー に記載していたものを再編集したものです。
※上記の Vivobook S 15 のレビューには約20のゲームタイトルの動作確認も掲載しています。